新人客先常駐型SEだった私が統合失調症になるまで。第9話「私と入院するまで(前編)」
1月26日。
私は最後の有休を使った。
上司にセクハラやパワハラをされたことが嫌で、一睡もできずに朝を迎えた。
お正月くらいに思っていた、「会社に逆らったら個人情報を漏らされる」という思いが再発して、家でもじっとしていられなかった。
家のお金を取られてしまう、家が狙われている。そんな不安でいっぱいだった。
テレビを見ていても、外が異常な寒さだとかインフルエンザが流行ってるだとかの内容ばかりで、家が隔離されてるような感じがした。
それに、洗濯機の洗濯時間があまりにも長く、電気代を奪われているような気がした。
だから私たちはハワイに住んでいるんだ、と母と思うことにした。
だから日本語は家の中でのみ使って、もし家に誰かが来ても、英語で喋って追い返そうと思っていた。
しかし家に宅配が来た時、母はいつも通りに対応した。そして家族内でしか呼んでいない「ねこ(仮)」という私のニックネームも、宅配の人に聞かれてしまった。
私のニックネームがバレてしまったことで、それが「もしもし、ねこだよ」みたいにオレオレ詐欺に利用されてしまうのではないかと、不安になってしまった。
昼頃になり、母は私に寝たほうがいいと言った。
母は「2階のベッドで寝ていいよ」と言ってくれたが、私には「2回のbet(賭け)で寝ていいよ」に聞こえた。
賭けとは何なのか、2回使ってしまったらどうなるのか、など不安になりながらベッドで寝た。
そのほかにも「〜したい」が「死体」に聞こえたり、「大豆」が「dies(dieの三人称)」に聞こえたりなどの誤変換が続いて、苦しんでいた。
結局寝た後も食欲が出ず、ほとんど食べないまま1日を終えた。
1月27日。
混乱のあまり、私は自分が男か女かすらわからなくなっていた。
本来手だと思っているものも、本当は足なのではないか、本来頭だと思っているものも、本当は尻なのではないかなど思い、逆立ちしながら歩きそうになった。
昨日一歩も外に出ていないから、外へ出かけることにした。
外に出たら一緒に住んでいるおばあちゃんが歩いていた。
私は「おばあちゃん、大丈夫?」と声をかけた。
すると、「おばあちゃん、大丈夫」と呟きながらSNSをいじっているかのような女性の姿が見えたような気がした。
私はおばあちゃんを騙そうとしている若者にでも見えたのかと思い、おばあちゃんの後をつくのをやめた。
しばらく歩いてスーパーにたどり着いた。
私はグレープフルーツを手に取った。
手に取った後、プラスチックの容器が目に入った。
私は触ってしまったなら買わなくてはと思い、慌ててその容器の中にグレープフルーツを入れた。
レジに向かったら、レジの入り口が出口で、出口が入り口になっていたように見えた。
しばらく別の方向を見ていたらレジは元に戻り、レジに並ぶことができた。
レジに並んで、無事グレープフルーツを買うことができた。
そんな幻覚めいた出来事の後、私は家に帰った。
私が留守にしている間に家がなくなっていないか、家族は無事かなど不安になって、急いで帰ってきた。
幸い家もあって家族も無事だったが、月曜が近づくことを恐れ、不安は消えなかった。